シマノXTR 搭載車で ENS#3 に参戦

ENS に初参戦
今年で10年に渡って開催されているエンデューロナショナルシリーズ(ENS)。なんどか取材に訪れたことはあったが、自分のエンデューロバイクを所有していなかったこともあり、レースへの参加を見送っていたのだが、昨年 TRANSITION SENTINEL Gen2 を手にいれ、「いつかは参加したいなぁ」と考えていた。
6月のXTRプレス試乗会で新型XTRが組み込まれた試乗車の中に、TRANSITION SENTINEL Gen3 があり、レーシングコンポーネンツを試すなら実戦が一番よくわかるだろうと試乗車を借りてのENS参加を相談すると快諾を得ることができ、白馬岩岳シリーズの締め切りギリギリにエントリー。思いがけずENSデビューをすることとなった。
白馬岩岳は、90年代初頭からレースや練習で通い詰めたこともあり、天候によって大きくコースコンディションが変わってしまう土質なので天気が危ぶまれたが、開催された土日は絶好の天気に恵まれ、乾燥しすぎてもいないベストコンディション。
バイク自体は自分のGen2から若干ジオメトリーが変更されており、以前試乗させて頂いた時のフィーリングは非常に好印象。そのバイクに最新のXTRがフルインストールされているので、現状自分の乗っているバイクより戦闘力は数ランク上。
今回はレースも含めじっくりと時間をかけて乗ることができたので、新型XTRを細かくインプレッションする。
以前のXTRのショートインプレッションはこちらから

シフトスイッチ

人間工学が考慮されたシフトレバー
触ってみた第一印象はスイッチのクリック感が ”気持ちいい” 。ポチポチといういわゆるボタンクリックではなく、しっかりとしたストローク感のあるスイッチで、単に電気信号を送って変速させるというよりもシフティング操作をたのしむことができる。高級なクルマでもハイエンドのカメラでもスイッチ部分のタッチの質感は重視されており、非常に好感を持つことができた。
また、XTRのみとなるがスイッチは2段式で、操作をシングルアクション、ダブルアクションに切り替えることができ、より素早い変速が可能となっている。
各レバーの位置と、アプリによる多段変速スピードなどをセッティング
SHIMANOコンポーネントはブレーキレバーとシフトレバーを一つのブラケットに統合させる I-SPEC EV により、ブレーキブラケットに直接シフターが装着されており、ハンドル周りはスッキリ。自分が一番重要なのはブレーキレバーの角度と位置なので、自分の指とレバーの掛かりがベストな位置と角度にセット。そのあとシフトの位置を調整した。
自分のバイクではシフトレバーの位置や角度は、ブレーキレバーの位置と若干折り合いをつけた場所にセットしていたのだが、新型XTRではシフトレバーの位置や角度の調整幅が広いので、全く妥協することなく自分のベストな位置にセッティングすることができた。これだけでも素晴らしい進化といえるのは、アップ・ダウンスイッチの角度まで調整が可能なこと。3mmのアーレンキー1本で自分の指に自然な位置・角度にセッティングできるのは痒いところに手が届いている部分といえる。
また、ライディングスタイルや走行するトレイルによって自分に馴染むシフトフィールを探ることができるのもこのシステムの面白いところ。シフトスイッチを長押しにして操作する多段変速のスピードや操作のセッティングは、SHIMANO が提供する「E-TUBE」アプリでスマートフォンとペアリングすることで、簡単に行うことができる。
ワンプッシュで多段変速させたり、アップ、ダウンのレバー位置を変更することもできるので自由度も高い。うまくセッティングすれば急な登り返しでもあらかじめギアを落とさずに突っ込んでからでも十分対応することができる。試しに強く踏み込みながらシフトしてみても、嫌な引っかかりや大きなシフトショックもなく確実に変速し、リアディレイラー自体の高い剛性と、チェーン、専用スプロケットの進化を感じることができた。うまくセッティングできれば、自分の感覚や走り方に合わせることで全くストレスを感じることなく、ご機嫌な変速フィールを味わうことができる。

スイッチの位置や角度の自由度も高く、妥協することなく自分好みに調整可能。整備性も考慮され3mmアーレンキー1本で簡単に調整することができる。どうしても他社のブレーキレバーと組み合わせたいというライダーのためにブラケット式のシフターも用意されており、バッテリーは手に入りやすいCR1632を2個使用。シフトスイッチを同時に押し続け、電池残量の確認も可能となっている。
シフトスイッチ
製品名 | 仕様 | 平均重量 | 価格 |
SW-M9250-IR | I-SPEC EV | 97g | ¥31,826 |
SW-M9250-R | – | 104g | ¥31,826 |
リアディレイラー

今回のレースではぶつける事はなかったが、前方投影面積を小さくし、障害物に当たっても受け流すウェッジデザインと、ヒット時に衝撃を受け変形するような衝撃を受けた際に内側にずれ、すぐに元の位置に復帰するオートマチックインパクトリカバリー機能によって木の根や岩にヒットしてもパーツが破損する恐れが減少し、レースを継続することができるのは安心感と共にライン選びの優位性でメリットが大きい。とくに路面コンディションの変化が読めないトレイルなどで万が一ヒットさせてしまっても破損せずに降りてくることができるというのはかなりアドバンテージが大きく、デュアルスプリングデザインによってチェーンのテンションも向上し、荒れた路面でチェーンの暴れも減少させるなど、いつでも確実な変速と駆動力の伝達という部分でも大きく進化を遂げ、さらにプーリー周りのガードが強化。あえてプーリーの穴を塞いだことで、マッドコンディションでも芝や泥が詰まったり絡まっての変則不良を防ぎ、安定した走行が可能となっている。
今回使用したGSは新設計の9-45T用で、フロントギアをよりコンパクトにでき、ロードクリアランスが増えているのも大きな優位性といえるだろう。もちろんトレイルやロングの登りのためにSGSもラインナップしており、そちらは同様の機能を備え、10-51Tに対応する。
バッテリーはXTRロゴ下部のカバーを外して着脱。パンタグラフの内部に装着されているため破損や紛失のおそれは最小限となっている。
リアディレイラー
製品名 | 仕様 | 平均重量 | 価格 |
RD-M9250-GS | 12-Speed GS / CS 9-45T対応 | 389g | ¥96,616 |
RD-M9250-SGS | 12-Speed SGS / CS 10-51T対応 | 391g | ¥96,616 |
ドライブトレイン

剛性と重量のバランスが考慮された設計
クランクはSHIMANOのお家芸ともいえる中空鍛造のホローテック2方式で、軽量と剛性のバランスを狙ったXC用と、耐久性と大きな衝撃に対応させたエンデューロ用がラインナップ。この2種類のモデルは剛性のためにシャフトの太さが異なる設計で、エンデューロ用は19.7%厚みを増しており、現行のDHコンポーネント「SAINT」に迫る剛性を誇っている。エンデューロ用は160〜175mmまで5mm刻みで4サイズのクランク長、XC向けでは165〜175mmの3サイズを選ぶことができる。さらにQファクターも異なり、それぞれの使用用途に最適化されているのも特長のひとつといえる。
チェーンリングは28Tから2T刻みで38Tまで。チェーンリングはダイレクトマウントなので、下り系ライダーが注目するO-CHAINの装着も可能となっている。また、フルストローク時に打ちやすい部分はしっかりと強化され、その他の部分は軽量化され、万が一をなるべく回避する設計。もちろん今回のライディングではチェーン落ちなども全く起こらず、終始ペダリングに集中することができた。
カセットの歯数
カセットスプロケットは高負荷時でもスムーズに変速することができる新設計の歯先形状で10-51Tと9-45Tの2種類をラインナップ。今回装着されていたのは新規格となる9-45T。軽量化と耐久性のバランスが考慮され、歯数によってチタン、アルミ、スチールの3素材を用いており、9-45Tでは19-33の5枚、10-51Tには21-33の4枚にチタン歯が使用されている。
この9-45Tカセットとミディアムケージのディレイラーを使用することで、下部プーリーの位置が旧モデルよりも23mmアップしており、深い轍やマッドコンディションでも障害物とのヒットを心配することなく走行できる。僅か23mmと思うかもしれないが、この差はかなり大きく、ハードなロックセクションでも安心して突っ込んでいくことができるだろう。比較的キレイな路面の今回のレースコースでは巻き上げた木の枝などを巻き込むこともなく、トラブルは起こらなかったが、富士見パノラマやウイングヒルズのロックセクションでも大きくラインを外さなければ全く心配することはないだろう。

クランクセット
製品名 | クランク長 | 仕様 | 対応チェーンリング | 価格 |
FC-M9220 | 160mm | リア対応スピード12s チェーンライン55mm Qファクター 176mm ENDURO | 28〜34T | ¥44,734 |
165mm | ||||
170mm | ||||
175mm | ||||
FC-M9200 | 165mm | リア対応スピード12s チェーンライン55mm Qファクター 168mm XC | 30〜38T | ¥44,734 |
170mm | ||||
175mm |
チェーンリング
仕様 | 歯数 | 価格 |
ダイレクトマウント | 28〜38T(2T刻み) | ¥21,916 |
カセットスプロケット
製品名 | 仕様 | 対応チェーン | 平均重量 | 価格 |
CS-M9200-12 | 9-45T 12s (9-11-13-15-17-19-21-24-28-33-39-45T) | HG 12スピード | 327g | ¥72,566 |
10-51T 12s (10-12-14-16-18-21-24-28-33-39-45-51T) | 369g |
ブレーキレバー&キャリパー

大きく進化したコントロール性能
ブレーキに関しては前モデルでも進化を感じたが、今回のモデルは一気に数世代分も進化したように感じる。
効きに関しては終始一貫した制動力を発揮し、ハードなブレーキングを多用したとしても10分ほどのコースではレバーの遊びが変化してしまったり、効きの変化を全く感じることなく、自分が慣れたいつものタイミングでブレーキングを始めると効き過ぎてしまうという感覚だった。
掛け始めの初期に一気に制動力が立ち上がるというより、初期からコントロール性が高く、もっと奥まで突っ込んでもしっかりとスピードを落とすことができるので、自分のイメージよりワンテンポ遅らせてブレーキングを開始することができる。ちょっと解りにくいかもしれないが、レバーを握り込んだ奥の奥でもしっかりと効きをコントロールすることができるので、レース志向のライダーでも、トレイルを楽しむライダーでも万人が扱いやすくなっている。
先だって土砂降りのウェットコンディションで試乗させていただいた富士見パノラマでもしっかりとしたコントロール性を実感できたので、全天候で非常にコントローラブルなブレーキだということは間違いなく、他社ハイエンドブレーキシステムに勝るとも劣らない扱いやすさといえる。


従来のレバー設計(オレンジ)からピボットの位置を変更し、ブレーキング時のレバーの軌道を自然な指の動きに対応させたことでコントロール性を向上。さらにレバーに5度の角度をつけることでレバーを握り込んでも自然なフィーリングを得た。さらにミネラルオイルの成分も変更するなど、全てにおいて生まれ変わったブレーキシステムと言っても過言ではないほどの変化を遂げている。
エンデューロモデルの9220セットはワールドカップダウンヒル競技で連勝を重ねているサンタクルズ・シンジケートチームのジャクソン・ゴールドストーン選手が使用していることからも性能は折り紙付き。国内でサポートされる清水一輝選手や九島勇気選手といった日本を代表するトップ選手も採用しているブレーキシステム。
レバー、キャリパーともにエンデューロ向け、XC向けに2種ラインナップしている。エンデューロ向けは上記のレバーと4ピストンキャリパーによりコントロール性能を向上。XC向きは従来仕様のレバーと2ピストンキャリパーにより重量面で大きなメリットがあるので、走行するメインフィールドを考慮して選択できる。もちろんミックスしての使用も可能。
トレイル中心の用途であれば、最新レバーのコントロール性を得ながら軽量な2ピストンキャリパーを使用するといった選択もできる。
ブレーキレバー
製品名 | 仕様 | 重量 | 価格 |
BL-M9220-L | ENDURO / 2フィンガー | 112g | ¥15,312 |
BL-M9220-R | ¥15,312 | ||
BL-M9200-L | XC / 2フィンガー | 65g | ¥14,110 |
BL-M9200-R | ¥14,110 |
ブレーキキャリパー
製品名 | 仕様 | 価格 |
BR-M9220 | ENDURO / 4ピストン | ¥24,297 |
BR-M9200 | XC / 2ピストン | ¥20,990 |
高精度のハブ&カーボンリム


ホイールも今回のモデルチェンジの目玉の一つだ。カーボン製リムを採用したホイールは衝撃吸収性がありながらしっかりと”転がる”。リアハブのノッチが細かいので足を止めて路面のギャップに合わせて荷重・抜重を行うことで失速せずに前に出るイメージ。もちろん漕ぎ出しの掛かりがいい。
ハブには耐久性とメンテナンス性のためシールドベアリングを採用。空走時のノッチ音は控えめだが小気味よい音。軽く手で持って回してみても抵抗なく長時間空転するのでスムーズ。多くのライダーはあまり完組みホイールを使用しないが、個人的にはリム、ハブ、スポークがバランスよく組み上げられた完組みホイールは、狙った設計意図が明確で大きな武器だと思う。XTRのホイールは専門の職人によって組み上げられており、精度の高さもピカイチといえる。
ホイールセット
製品名 | ハブ仕様 | リム仕様 | 平均重量 | 価格 |
WH-M9220-TL-F15-B-29 | BOOST規格15×110mmスルー センターロックディスク | 推奨タイヤ:29 x 2.30 – 2.60 チューブレスレディ対応フックレス 内幅:30mm 28H | 840g | ¥127,991 |
WH-M9220-TL-R12-B-29 | BOOST規格12×148mmスルー マイクロスプライン12S センターロックディスク | 951g | ¥146,276 | |
WH-M9200-TL-F15-B-29 | BOOST規格15×110mmスルー センターロックディスク ストレートチタンスポーク | 推奨タイヤ:29 x 2.20 – 2.60 チューブレスレディ対応フックド 内幅:29.6mm 24H | 517g | ¥182,843 |
WH-M9200-TL-R12-B-29 | BOOST規格12×148mmスルー マイクロスプライン12S センターロックディスク | 640g | ¥201,128 |
エンデューロ向けのホイールは厚いウォールによってリムの破損を防ぎ、剛性も十分。XC向けはチタンスポークを採用し、極限まで軽量化されているが、ワールドカップのハードなコースにも十分な剛性を与えられている。
レースでの使用感

土曜の試走では自分の所有するバイクでコースチェックを行い、長ショートコースの第1、第3ステージはそこそこに、一番タイム差の大きくなる超ロングコースの第2ステージを中心に走行したのだが、やはりノンストップで走り切るにはかなり長く、そうでなくても体力のない自分には正直きついな〜という印象。最後の1本でセッティングを試しながらXTR搭載のバイクで走行したが、レーススピードで攻めて走るには体力・集中力的にかなり辛そうなことが予想できた。
レースでは誇れるような結果を出すことは叶わなかったが、終始コンポ性能に助けられた。第1、3ステージは超ショートコースでスタートから全力で漕いで1コーナーに飛び込み、その後も漕げるところはしっかりと加速が必要なコース。スタートギアからのシフトアップではそのスピードと確実な変速に助けられ、コーナーの立ち上がりの踏み出し時には掛かりの良いリアハブのおかげでワンテンポ早くトラクションが掛かる印象で、全くストレスを感じることなくライディングに集中することができた。
超ロングの第2ステージでは、疲れてきた中〜後半で突っ込みすぎてブレーキコントロールや適正なギアへの変速が曖昧になってもしっかりと減速ができ、漕ぎの部分では適切なギアに瞬時に変速でき、足を止めての空走区間でも転がるホイールに助けられた。
新型XTRは、Di2化されたことによってパーソナルな好みや乗り方に合わせたベストなセッティングに変更することができ、ストレスなく走行できるのが大きな武器といえ、トップライダーの要求にしっかりと応えた機能と性能を有するレーシングコンポだが、トレイルライドに使用しても間違いのない性能を発揮。
Di2の優位性は一度使ったら他の選択肢はなくなるほどの快感を与えてくれるはずなので、機会があれば積極的に試乗してみてほしい。もちろんホイールも試すことで新型XTRの総合力を味わうことができるはずだ。
問:シマノ